名前をつけてやる

「名前をつけてやる」は1991年11月発売の2ndアルバム「名前をつけてやる」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:スピッツ

この曲はアルバムのタイトルチューンで、アルバムを代表する一曲です。

読んでいてすごく面白いなと思ったのはその作り方です。完全に狙ってあるトリックを使っています。しかも、読んでいてもトリックに気が付かないよう、使う言葉を工夫しているんです。

こんな作詞の方法があるのかと驚きましたが、とても面白くて、アルバムの代表曲にふさわしいと感じました。

アンダーラインを引いたところはトリックに気が付かないように工夫されているところなので、注意して読んでみてください。

名もない小さな街の 名もないぬかるんだ通りで

似た者同士が出会い くだらない駄ジャレを吐き笑った

ぼやけた雲の切れ間に なぜなのか安らぎ覚えて

まぬけなあくびの次に 目が覚めたら寒かった

まるで、映画か小説かといった書き出しですね。最初のちょっとした工夫は「似た者同士」と「駄じゃれ」かな。「駄じゃれ」とは”似通った音を持つ言葉を掛けて遊ぶ言葉遊びのようなもの”なので、「似た者同士」とさらに掛けているのが楽しいです。

次に続く「ぼやけた雲の切れ間」とありますが、「ぬかるんだ通り」というから外にいて、ぬかるんでいるってことは先ほど雨が降ってその雲なのかな?と思わせますね。

名前をつけてやる 残りの夜が来て

むき出しのでっぱり ごまかせない夜が来て

名前をつけてやる 本気で考えちゃった

誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな

ここはまだ意味がわからないので飛ばしましょう。

マンモス広場で8時 わざとらしく声をひそめて

ふくらんだシャツのボタンを ひきちぎるスキなど探しながら

回転木馬回らず 駅前のくす玉も割れず

無言の合図の上で 最後の日が今日だった

またしても、スパイ映画か探偵小説を思わせるような表現です。声を潜めて「8時にマンモス広場で」とその女性のシャツの胸元の「ボタンを引きちぎるスキなど探しながら」なんて。

次に「回転木馬」「駅前のくす玉」と続くので、これはマンモス広場にあるのかな?って思わせますよね。

 

さて、ここまで読んで来て、単語は難しくないのに全然意味が解りませんよね。

物語風で、謎めいているような印象を受けたのではないでしょうか。

ここで使われているトリックとは歌詞の”順序の組み換え”です。

次のように読んで行くとどうでしょう。

 

 名もない小さな街の 名もないぬかるんだ通りで

 似た者同士が出会い くだらない駄ジャレを吐き笑った

 マンモス広場で8時 わざとらしく声をひそめて

 ふくらんだシャツのボタンを ひきちぎるスキなど探しながら

 ぼやけた雲の切れ間に なぜなのか安らぎ覚えて

 まぬけなあくびの次に 目が覚めたら寒かった

 回転木馬回らず 駅前のくす玉も割れず

 無言の合図の上で 最後の日が今日だった

 

これが正しい順番です。読んでいるとだんだん意味が通って来ませんか?

 

少し説明を加えますと、「雲」とは湯気もその一種ですから、ここではおそらくシャワーの湯気のことでしょう。「回転木馬回らず」上下する回転木馬、「駅前のくす玉」割れて飛び散るくす玉は、性行為の隠語として使われています。

 

ここまでの意味を装飾を取り去って書いてみますね。

 

出会った女性ととても気が合ったので、夜8時に待ち合わせをして女性とのことを期待をしていたのだけれど、部屋でシャワーの湯気を見ていたらなんだか眠くなってしまい、気がついたら一人残されていた(もしくは、自分の部屋で寝てしまった)。期待していたことは出来なかったし、彼女が何も言わずに帰ってしまった(もしくは、電話などに出てくれない)ということはこれは今日でもう終わったっていうことなんだな...

 

どうでしょう?

かわいそうだけど、笑ってしまうようなちょっと情けない状況ですね。

先ほども書きましたが、この歌詞、まるで小説やスパイ映画のように格好よく書かれていましたよね。それがさらに惨めな感じに拍車をかけているような気がしませんか?上手いです。

名前をつけてやる 残りの夜が来て

むき出しのでっぱり ごまかせない夜が来て

名前をつけてやる 本気で考えちゃった

誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな

これで、ここの意味も解ってきます。

「残りの夜」とは一人残されてしまったその後の時間のことですね。期待していたから「むきだしの出っ張り ごまかせない夜」です。もうすごく”男性”として期待していたんですよ、かわいそうに…でも寝ちゃったのは自分ですからどうにも仕方がないですよね。

そんな情けない状況に対して「誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな」「名前をつけてやる」と強がっています。「本気で考えちゃった」ってちょっと自虐っぽい感じも可愛いですね。

名前をつけてやる 残りの夜が来て

むき出しのでっぱり ごまかせない夜が来て

名前をつけてやる 本気で考えちゃった

誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな

男の子のよくある(?)失敗と強がりが情けなくも可愛らしい、愛すべき歌詞でした。

 

‪追記:少し前に流行った「〜に名前をつけたい」という「その現象に名前を付けたい」というtweet。この曲を読むのにとてもヒントになりました。‬