胸に咲いた黄色い花

「胸に咲いた黄色い花」は1991年11月に発売された2ndアルバム「名前を付けてやる」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:スピッツ

月の光 差し込む部屋

きのうまでの砂漠のひとり遊び

胸に咲いた黄色い花 君の心宿した花

マサムネさんの歌詞に「部屋」と出てきたらそれは”心の内側”のことかな?とまず考えます。そのように読むと、ここは、″君の心を宿した花が、昨日までまるで砂漠のように乾いて独りきりだった僕の心に月の光が射すように黄色く咲いた”と読めます。実際に夜の部屋にいることも併せて表現しているのでしょう。

このまま僕のそばにいてずっと

もう消えないでね

乾いて枯れかかった僕の胸に

ここでも「乾いて枯れかかった僕の胸」とありますので、先ほどの「砂漠」はやはり自分の心の内側を表していたようです。心の内側に咲いた「君」に「もう消えないで」「ずっと僕のそばにいて」と語りかけています。

鉄の扉こじ開けたら

僕を変える何かがあると聞いた

君と笑う みんな捨てて

街の音にもまれながら

「扉」は心の内側から外側を隔てているもの。それは「鉄」だと言っていますから、頑丈で重くて、「こじ開け」ないと開かないほどです。心の外側に出ることは、主人公にとってかなり勇気のいる思いきった行動のようです。そして、心の外側「街」(実際の街でもある)に出た結果、これまでのことを「みんな捨てて」笑いあえる「君」と出会えたのでしょう。「音にもまれる」とありますので、一人きりから一転にぎやかになったことと併せて、そこが安心できる場所でなかったことも表わしているように思います。

このまま僕のそばにいてずっと

もう消えないでね

乾いて枯れかかった僕の胸に

そんなに勇気を出さないと心の外側に出られなかったのは一体なぜなのでしょうか。

「もう消えないでね」にヒントがありそうです。

弱く輝いている 宵のホタルのように

どこへ流されていく 黄色い花

ここはメロディが変わっていますから、この曲において重要な部分になりそうです。

先ほどは「月の光」でしたが、今度は「宵のホタルのよう」。どちらも”幸せ”の象徴の”黄色い”光ですが、今回は「弱く輝いている」すぐに消えてしまいそうに儚げに表現されていますね。それに加えて、「どこへ流されていく」…

時の淀み 行く手を知り

明日になればこの幻も終わる

胸に咲いた黄色い花 君の心宿した花

「淀み」と聞いてすぐに思い浮かべるのは”方丈記”の一節。

”ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。”

全てのものは同じ場所に留まっていることはなく変化していく、それを知っているから、「明日になればこの幻も終わる」”きっと君の心が僕に宿ったということも幻に終わってしまうんだ”と恐れる気持ちを吐き、自分の心が壊れてしまわないよう予防線を張っているようです。

そう思うと、「もう消えないで」と歌っているのは、過去に心を許していた誰かに消えられてしまったことがあり、そのことに深く傷ついた状態のままなのかもしれません。そして、心を鉄の扉で固く閉ざし、まるで砂漠のように乾いた状態で独り今まで過ごしてきたのでしょう。

このまま僕のそばにいてずっと

もう消えないでね

乾いて枯れかかった僕の胸に 

それでも、やはり君にはずっとそばにいてほしい、もう消えないでほしい、僕を想う気持ちが変わらないでほしいと願う気持ちは強く、明日への少しの希望を胸に、大きな恐れとともに夜を過ごしています。

 

新しい恋の喜びとそれを再び失う恐れに震えながら二人の夜を過ごす、繊細な青年の姿が目に浮かんでくるようです。

 

追記:「君」は一度自分の前から消えてしまった彼女で、自分の頑なだった心を開いて再会しにいく、「みんな捨てて」というのはこれまでのトラブルやわだかまり、というパターンも考え、どちらもありうるなと思うのですが、今回は新しい恋の方で書いてみました。