プール

「プール」は1991年11月に発売された2ndアルバム「名前をつけてやる」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:スピッツ

君に会えた 夏蜘蛛になった

ねっころがって くるくるにからまってふざけた

風のように 少しだけ揺れながら

 「蜘蛛」の表現の解釈には有名な”脚が8本=男女の手足の合計も8本”というのがありますね。私もこれに賛成です。それに加えて、「くるくるにからまって」で蜘蛛が糸を出すことをイメージさせ、二人が絡みあう様により親密さを加えることにも成功しているように思います。

「ふざけた」という表現にとても幸せで楽しくて仕方がない様子もうかがえますね。

季節は「夏」。「風のように少しだけ揺れながら」とありますから、風が気持ちのいい初夏でしょうか。

また、「少しだけ揺れる」という表現に「感情の機微」という言葉を思い出します。非常に微細な心の動きです。繊細な印象を与えられます。

「君に会えた」ことが爽やかで幸せで繊細なこととして表現されています。

街の隅のドブ川にあった

壊れそうな笹舟に乗って流れた

霧のように かすかに消えながら

 「街の隅のドブ川」をいつも気にかけている方はどのくらいいるでしょうか。普段は気にも留めていない、つまり、君は”思いもかけないことに”「かすかに消えながら」「流れて」行ってしまったという意味にも感じられます。

季節は「秋」。笹舟を作るのは初夏から夏にかけてですから、「壊れそう」なのは誰かが作って一度流した笹舟が川の淀みに長く留まっていたのでしょう。また、川霧が発生するのは秋で、秋を表現するときに季語としても使われます。

さて、”淀みから流れる”というところは「胸に咲いた黄色い花」にもあるように、物事とは常に同じ状態ではないということを表しています。「壊れそう」から、物悲しく不安定な印象も持ちますし、「霧のようにかすかに」から儚さも感じます。

君が「流れた」居なくなってしまったことが、思いがけず物悲しく儚いこととして表現されています。

孤りを忘れた世界に 水しぶきはね上げて

バタ足 大きな姿が泳ぎだす

 ひとりが「孤独」の「孤」の字を使っているのが印象的です。二人でいることの喜び、孤独でない安らぎを知ったことが、この一文字で大変印象強く感じさせられます。もしかしたら異性との”精神的なつながり”を初めて持ったのでしょうか。心にこれまでにない変化が起こったことが思わされます。

泳ぐ表現も「水しぶきはね上げて」「バタ足」と非常にダイナミックですし、「大きな姿」もこれまでにない大胆な雰囲気です。

最初の、繊細な感情、儚く物悲しい感情とは違い、大きな心の動きが表現されています。

孤独を忘れさせてくれた彼女が去ってしまったこと、それがどれほど自分にとって大きく衝撃的なことであったのかが感じられるようです。二人でいることの幸せを知ったからこその衝撃です。

君に会えた 夏蜘蛛になった

ねっころがって くるくるにからまってふざけた

風のように 少しだけ揺れながら

 幸せで心穏やかだったころの表現が繰り返されます。

くり返すことで、それぞれの歌詞が際立つようにも感じます。

孤りを忘れた世界に 白い花 降りやまず

でこぼこ野原を 静かに日は照らす

 「白い花」とは雪花(雪華)のことでしょう。これは、雪の結晶、または、雪が降るのを花にたとえた表現です。マサムネさんの”冬”は”恋の終わり”または”独りでいること”です。雪が降りやまず積もって真っ白になること、それは恋が完全に終わったことを意味しています。季節は、雪花から冬。

そして、雪はやみ、静かに日が照らします。雪は日の光によって溶けかかっているのかもしれません。非常に静かな光景が目に浮かぶようです。

「でこぼこ野原」なのは出会う前はいつも平坦だった心が、この恋によって感情の起伏を知ったということなのかもしれませんね。

この後にスキャットが続きますが、非常に幻想的で、空虚な雰囲気を持ち、心の中を表現しているように思います。すべては終わりました。

君に会えた 夏蜘蛛になった

ねっころがって くるくるにからまってふざけた

風のように 少しだけ揺れながら

最後に最初の歌詞が印象的に繰り返されます。

 

さて、曲のタイトル「プール」poolですが、全ての部分にそれが見られます。

まず、「ねっころがってふざけた」から「浅いプールでじゃれるような」(正夢/スピッツ)が連想されませんか。「正夢」が作られるのはずっと後ですが同じイメージで作詞されたのかもしれません。

そして、笹舟が溜まっていたところ、水が溜まっているところ=poolとしてここにも登場します。

そして、「バタ足」で泳ぎだすプール。

最後に、「でこぼこ野原」に日が照らし、凹の部分に溜まった水=pool

こっそりと忍ばせてあるところにマサムネさんのこだわりを感じました。

 

季節が初夏から秋そして冬に移り変わる巧みな表現、若い男性の感情の動きや心の変化、恋人とのつながりで孤独を忘れるような大きな幸福感とそれを失う大きな喪失感、などなど、多くの表現したい事柄がぎっしりと詰まった、とても奥行のある素敵な一曲でした。