海ねこ

「海ねこ」は1992年4月に発売されたミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:長谷川智樹 with スピッツ

はじめからこうなるとわかってたのに

宝物のありかはわかってたのに

おそろしくいい天気だ

寂しそうに流れていくわた雲を追いかけて行こう

この曲のタイトル「海ねこ」はカモメの一種で、渡り鳥です。鳴き声が猫に似ているためこの名前になったとのこと。繁殖の間だけ巣作りをして、あとは海を渡って行きます。

そこから、「はじめからこうなるとわかっていた」というのは、「宝物」がどこかに行ってしまうことだと思われます。このまま何もしないでいてはいつかは失うとわかっていたのに、どこにあるかもわかっていたのに、手元に留めておくことができなかったようです。そして後悔を滲ませるような表現になっています。

心の中は雨が降っているのに空は晴天で、「流れていくわた雲」に、渡り鳥のようにどこかに行ってしまう「宝物」の姿を重ね合わせているように思えます。

「寂しそう」ですから「宝物」もどこか旅立つことに寂しさを抱えているということでしょうか、または、自分の心の内を投影しているのでしょうか。

今日 一日だけでいい

僕のとなりでうたっていて

ここは「宝物」に語りかけているようですね。

「宝物」はこれまで「僕のとなりでうたって」くれていた、でも、これからは出来なくなる。だから、「今日一日だけでいい」から「となりでうたっていて」。

明日になれば僕らもこの世界も

消え失せてしまうかもしれないしね

マサムネさんは過去のインタビューで”歌詞に出てくる「僕ら」とは多人数のことではなく「僕と君の二人」のことだ”と話されていますので、ここの「僕ら」も”僕と君”ということになります。ですから、「宝物」とは”君”ということがはっきりしました。

先ほどの「うた」とは「魔法」に出てきた「君の存在により溢れるように生み出される力」です。君から僕に力をくれるもの。”最後に今日一日だけでいいから君からの力を感じさせてほしい”ということを歌っていたんですね。

「明日になれば」からの歌詞は投げやりにも聞こえますが、それが返って失う悲しみに満ちているように感じられます。”君も消えてしまうけれど、僕たちも、世界だって消えてしまうかもしれないんだから”。

”明日なんてわからないものなんだ”ここは「魔法」で歌われた「偽物の明日」と言えるかもしれません。明日も同じように来ると油断していたら「宝物」はもうない明日が来るのですから。

今日 一日だけでいい

僕と二人で笑っていて

「笑っていて」二人はこれまで一緒に笑いあう関係だったようです。「隣にいてうたい」「笑う」仲ですから大変に気が合っていたのでしょう。しかし、明日からはもうそれはかないません。

はじめからこうなるとわかってたのに

宝物のありかはわかってたのに

今日 一日だけでいい

僕のとなりでうたっていて 

恋人だった君がどこかへ旅立つのか、とても仲良くしていたが友人止まりだった君が誰か他の男性の元へ行くのか、どちらとも読めますね。

 

私は、僕が最後の一歩を踏み出せず、ついには君は他の男性の元へ行ってしまった、と読みました。君が「宝物」だとわかっていたのに、どうしたことか恋人として得ることができませんでした。恋愛は早い者勝ちなどと言いますが、先にはっきりと意思表示をした者が勝つことも多いのです。「はじめからこうなるとわかっていたのに」手を打つことができなかった自分に歯がゆさを感じているように思えます。

 

人の抱える孤独を癒す愛すべき「宝物」、君がそれだとわかっていたのに、この手にとどめておくことができなかった。せめて、最後に一日だけでいいから僕に力を与えて欲しい。

「海ねこ」はそんなやるせない失恋の歌でした。

 

追記: マサムネさんは昔、一年計画を立てて女性を口説き落とそうとするような慎重派だったとインタビューで話されていますから、もしかしたらその経験がこの曲を作らせたのかもしれませんね。