「涙」は1992年4月に発売されたミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:長谷川智樹 with スピッツ

君のまつ毛で揺れてる水晶の粒

本当は一人ぼっち

壁に描いた緑色のドアをあけて

広がる 時の海

「君のまつげで揺れてる」ものが「水晶」だという表現に、君に対する気持ちが表れているように感じます。水晶とは、純粋無垢な印象の美しいものであり、主人公の思う君に対する印象そのものでもあるようですし、君を思いやる表現でもあるように感じます。

普通に過ごしているようで実は孤独に塞ぐ君の心の壁に「緑色のドア」を描いて開ければそこには「時の海が広がる」。君の心は今、一つところに留まって、動けない状態であるようです。

「緑色」からどんなことを感じるでしょうか、例えば若葉の色のような新鮮なイメージ、信号の緑色など安全なイメージ、そんな印象です。

または、O.ヘンリーの冒険者について書かれた短編小説「The green door」と関連しているのかもしれません。

追記:こちらの全訳がありましたので載せます。

http://www13.plala.or.jp/nami/green.html

この短編小説から取ったのかはわかりませんが、もしそうであれば「緑色のドア」としたのは、そこを開けることは冒険であるという意味を込めたのかもしれないと思いました。

だけど君はもう気づきはじめるだろう

変わりゆく景色に

月のライトが涙でとびちる夜に

ドアを開ければ、「変わりゆく景色」に「気づきはじめるだろう」

「だけど君はもう」とは、ドアを開けるだけで何もしなくても、という意味でしょうか。

君は、涙を浮かべるような孤独で弱い状態ですから、何か一生懸命にしなくてはならないことはとても無理です。君への大きな優しさを感じる表現だと思いました。

そして、それは「月のライト」に照らされることで得られるようです。

選ばれて君は女神になる

誰にも悟られず

月は「女神」に力を与えると言われています。

「選ばれて」「誰にも悟られず」という表現に、孤独な君を勇気づけ励ましたいという主人公の精一杯の気持ちが思われます。

心のドアを開くだけで、君は自然に選ばれて女神になれるんだよ、と。

そして君はすぐ歩きはじめるだろう

放たれた魂で

月のライトが涙でとびちる夜に

月からパワーを得て女神になった君は「放たれた魂で」魔法で歌われた「さびついた自由」から解放されて、「時の海」を「歩きはじめる」ことができる。前に進むことができる。

だけど君はもう気づきはじめるだろう

変わりゆく景色に

そして君はすぐ歩きはじめるだろう

放たれた魂で

月のライトが涙で飛び散る夜に 

魔法で歌われた「偽物の明日」つまり日々を偽りの中で過ごしている君に、心のドアを開いたらきっとそこで力を得られ、そして「さびついた自由」から解放され、前に進める、と。

 

「月のライトが涙で飛び散る夜」光が君からキラキラと弾かれていくような印象的な歌詞ですよね。この曲の美しさを一層引き立てているような気がします。

 

このアルバムの他の曲は「君の存在により溢れるように生み出される力」について歌われていましたが、この「涙」は、そんな君に力を与えたいという主人公の優しい気持ちが溢れるように伝わってくるものでした。

成熟した人間同士のつながりとは、一方的に力をもらうのではなく、お互いに与えあうものです。

アルバムのラストにふさわしい、美しく、優しく、そして力強い一曲だと思いました。