トンビ飛べなかった

「トンビ飛べなかった」は1991年3月に発売された1stアルバム「スピッツ」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:スピッツ

独りぼっちになった 寂しい夜 大安売り

ちょっとたたいて なおった

でもすぐに壊れた僕の送信機

枕の下に隠れてる君を探してた

「独り」と書くとき、人数が1になっただけでなく、「誰もいなくて寂しい」という意味を含みます。続く歌詞にも「寂しい夜」とありますので、さらに強調されていますね。それが「大安売り」と幾晩も続いているようです。

「送信機」とは何か。全体を読んで行くと後に出てくる「ペン」が対になっているようですので、おそらく、「自分の考えを伝えるもの」と読んで良いでしょう。

「君」とはまだ誰なのかわかりませんが、「送信機」が「壊れ」て、「枕の下に隠れてる」「君」を探している、ということで、枕元に入れると夢を見せてくれるもの、つまり、頭の中に考えを生み出してくれる人物ということかな?と想像します。

「送信機は壊れ」その「君」はいなくなって「独りで寂しい夜」のようです。

トンビ飛べなかった 今日も見えなかった

のんきに背伸び ふやけた別れのうた

 「トンビ」は「トンビが鷹を生む」ということわざからも伺えるように、タカ目の中で一段劣っていると考えられています。一段劣っている自分は「飛べなかった」。

「今日も見えなかった」これは、送信機が壊れたので君を探してまでも見たかったものでしょう。何かうまく行かないようですね。

「のんきに背伸び」は、「まあいいかと思っている」とも読めますし、「現実を知らずにトンビが背伸びをしていた」とも読めます。

また、「ふやけた」は水分でふやけるという意味もあり、また、ふやけた精神などとだらしないことを表す意味もあります。

この二点はまだわからないので、続けて読んで行きたいと思います。

とりあえず、この曲は「別れのうた」ではあるようです。おそらく「君」との別れでしょう。

つぶされかかってわかった 優しい声もアザだらけ

やっと世界がしゃべった

そんな気がしたけどまた同じ景色

正義のしるし踏んづける もういらないや

「優しい声」に「つぶされかかった」、それは「世界がしゃべった」ように思えることだったけれど、実際は「アザだらけ」になっていた。

「やっと世界がしゃべった」とは自分の思うように世界が動いてくれた、認めてもらえた、ということでしょうか。しかし、その「優しい声」は真実の声ではなくて、「アザだらけ」になり「つぶされかかって」しまい、よく見てみれば何も変わらず「同じ景色」だった。

「あわ」という曲に「優しい人やっぱりやだな」という歌詞がありますが、それと同じ意味でしょうね。

表面上の優しさは、時には刃になることがあります。

それに気がついて「正義のしるし踏んづける もういらないや」と続きます。

「正義のしるし」とは子供っぽいうぬぼれのことかと思います。小さな子供が持つ全能感、つまり、自分は特別な人間で、なんでもできる、という考え方。それを正義のしるしを持つヒーローに投影させて、捨ててしまおう、というわけです。

トンビ飛べなかった ペンは捨てなかった

怠惰な命 紙くずの部屋にいた

ここで、先ほどの「送信機」の対になる「ペン」が出てきます。

頭の中にあるものを送信してくれる機械と、それを書き記すペン。

ただ、ここでは、「紙くずの部屋にいた」とあるので、多くの アイディアを書いては丸めて捨て、書いては丸めて捨て、ただ、頭の中にあるものを送信するのとは違う行動を取っているように見えます。

そして、ここに「怠惰な命」と出てくるので、先ほど出てきた「ふやけた」は怠惰と同じ意味なのでしょう。そうすると、「のんきに背伸び」は、「自分の実力も知らずに背伸びをしていた」という方の意味になりますでしょうか。

それがわかったので、しかしめげずにペンは捨てずに、今度は頑張って自分の頭でアイディアを練りだしているようです。

トンビであることを自覚して、しっかり自分と向き合うことにしたのですね。

コオロギ鳴いてる 靴の中

宇宙のスイカが割れるまで待ってた

幾晩も「紙くずの部屋」にいて外に出ていないので、とうとう「コオロギ」が靴の中で鳴きはじめました。

部屋に籠っている様子、夜であること、また「鳴くコオロギ」から曲を作っていることがうかがわれます。(この二節でここまで表現するのは改めてすごいですね)

「宇宙のスイカが割れる」とはおそらく「超新星爆発」のことを言っているのだと思います。恒星は古くなると、赤く輝く星となり、そのうちに爆発します。爆発した結果何が起こるかというと、また新しい星ができます。

「待ってた」のは、「新しい星が出来ること」でしょう。これまでの自分ではない新しい自分が生まれることを望んでいるように思えます。

独りぼっちになった 寂しい夜 大安売り

三塁ベースを踏んで

そこから先は何も思い出せずに

どうぞ僕をのみこんでよ 大きな口で 

「三塁ベースを踏んで」新しい星が出来て、ようやく、自分の納得できる曲が出来上がったようです。しかし、それがホームインできるかはわからない、ホームベースまで走りますがもう無我夢中です。

「どうぞ僕をのみこんでよ 大きな口で」超新星爆発が起こると、新しい星と同時にブラックホールも出来ます。この「大きな口」とはブラックホールのことかと思います。

これが果たして認められるかわからない、怖い、そんな気持ちを表しているのかな、と想像しました。

トンビ飛べなかった 今日も見えなかった

のんきに背伸び ふやけた別れのうた

トンビ飛べなかった ペンは捨てなかった

怠惰な命 紙くずの部屋にいた

さて、全て読んで来て「別れた君」とは誰かという問題が残りました。

私は、「正義のしるし踏んづける もういらないや」からも、子供っぽいうぬぼれた自分、ではないかと思います。

頭に自然に浮かんでくるものは素晴らしいアイディアで、それをただ送信すれば世界が認めてくれると思っていた、実際、優しい言葉をかけてくれる人もいて自分はすごいと思っていた、しかし...

 

子供っぽいうぬぼれた自分と決別して、しっかり現実と向き合い、よく考えて練って曲作りをする。けれど、それは果たして受け入れられるのか...現実を知ったからこそ怖い。

 

「トンビ飛べなかった」はそんな成長する若者の心境を歌った曲だと思いました。