君が思い出になる前に

「君が思い出になる前に」は1993年9月に発売された4thアルバム「Crispy!」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:笹路正徳スピッツ

あの日もここで はみ出しそうな 君の笑顔を見た

水の色も風のにおいも 変わったね

明日の朝 僕は船に乗り 離ればなれになる

夢に見た君との旅路は かなわない

二人は出会い、季節が流れ、そして今、僕から君に別れが告げられます。

あの日、二人が出会った日に僕が惹かれたのは、「君のはみ出しそうな笑顔」でした。

季節が流れることは、自然の情景でもありますし、二人の関係のことでもあるのでしょう。出会い恋が始まる春、情熱的な夏を抜けて、秋を迎え、今は冬。

これまでは二人で同じ道を歩いてきましたが、今日を最後に僕は一人、君と離れた航路を行く。

出会いの時、二人の旅路が始まり続くことを夢見ましたが、その旅路は終わりを迎え、かなわない夢となりました。

このように、二人の関係を季節に、一緒に人生を歩むことを旅に例える表現はとても情緒深く思います。

きっと僕ら 導かれるままには歩き続けられない

二度と これからは

出会い惹かれあった二人は、まるで何か大きなものに導かれたようでした。

その大きな導きにそのまま引かれるように自然と歩みを続けてきましたが、もう導きは存在しません。二度と訪れることもないでしょう。

そうなれば、無理矢理に続けることは不可能で、離ればなれになるしかありません。

君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて

優しいふりだっていいから 子供の目で僕を困らせて

最後に僕が望むのは、出会った日に惹かれた「君のはみ出しそうな笑顔」でした。

既に君が僕にそんな笑顔を見せることも少なくなっていたのかもしれません。

「優しいふり」で本心からでなくてもいいから、あの日、僕を惹きつけ、どうしたらいいのかわからなくなってしまうくらいに魅力的な、無邪気な子供のようなあの目とこぼれるような笑顔を脳裏に焼き付けたい。なぜなら、思い出となって思い出す君が、僕がどうしようもなく惹かれた溢れんばかりの笑顔の君であって欲しいから。

ふれあう度に嘘も言えず けんかばかりしてた

かたまりになって坂道をころげてく

追い求めた影も光も 消え去り今はただ

君の耳と鼻の形が 愛おしい

優しい嘘、という言葉がありますが、関係を上手く運ぶためにそれを用いるには、人生経験を積む必要があるのかもしれません。

しかし、若い二人にはまだそのような技量もなく、若さ故の生真面目さがあり、また、お互いに期待する気持ちが大きければ大きいほど真剣に真正面からぶつかってしまうこともあります。

そんな二人は、ある時から、けんかばかりを繰り返すようになります。

そして、「かたまりになって」つまり、どちらからも止めることが出来ず一緒になって、「坂道をころげてく」ように、二人の関係は悪化していきました。

そんな日々を続けているうち、追い求めていた「影も光も消え去り」ます。

影は光があって初めて生じます。明るいところも暗い部分も、良いところも悪いところも、表も裏も...つまり「君の全て」と言うことでしょう。

追い求め、それ故に真正面からぶつかり、傷つけあい、いつの日かその情熱は消え去り、今はただ、大切な君にそっと触れて確かめた耳や鼻の形、愛おしいその感覚だけが残っています。

追い求める気持ちは失ってしまいましたが、愛おしさに変化はありません。

ただ、二人は悲しくも戻れないところまですれ違ってしまったのです。

この「耳と鼻の形」という表現、直接的な言葉を用いずに肉体的にも精神的にもかなりの親密さであることを表していて素晴らしいと思います、この曲で私が一番好きな部分です。

忘れないで 二人重ねた日々は

この世に生きた意味を 越えていたことを

二人の関係は上に見た通りですが、それは「この世に生きた意味を越えて」いました。

最後にはお互いを求める気持ちもなくなってしまいましたが、幸せな時があり、真剣に対峙し、ただ生きているということ以上の意味を二人で重ねた日々は持っていました。それを決して忘れないで欲しい。

最後に笑顔を脳裏に焼き付けたい理由がここにも重ねて表現されているように思います。そして、君も最後に笑顔になることで、二人が重ねた日々がそうであったことを思い出として持って欲しいと願います。

君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて

冷たい風に吹かれながら 虹のように今日は逃げないで

先ほど、季節が変わったと書きましたが、この「冷たい風」から、今が冬であることがわかります。実際の季節も冬なのかもしれませんが、マサムネさんの使う「冬」は恋愛が終わることも意味します。

虹は、近づこうとすると小さくなり、一定の距離から決して近づくことはできません。追い求めて追い求めて、それでも手に入れられなかった君。最後の今日の日だけは、逃げないでいて欲しい。

君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて

優しいふりだっていいから 子供の目で僕を困らせて

君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて

冷たい風に吹かれながら 虹のように今日は逃げないで

 「別れを告げながら笑ってほしいなんて勝手なことを言っている」などとマサムネさんはこの歌詞の僕について冗談のように評したこともありますが、皆さんはどう感じましたでしょうか。

思いが真剣であったが故に、思い返す二人の思い出が最良のものであって欲しいと願う気持ちはそれほど勝手だとは言えないように私には感じました。

それがわかるよう丁寧に作詞された素晴らしい曲でした。

君が思い出になる前に

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