君だけを

 「君だけを」は1993年9月に発売された「Crispy!」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:笹路正徳スピッツ

街は夜に包まれ 行きかう人魂の中

大人になった哀しみを 見失いそうで怖い

砕かれていく僕らは

夜、街を歩いていると、たくさんの「大人」とすれ違うのだが、それはまるで「人魂」のようで、身体がなくなった魂が浮遊しているようである。

その中にいると、自分もそのうち感覚が麻痺して同じようになってしまうのではないかと思わされそれがとても怖い、と「僕」は歌います。

「僕」は、大人になるということは、理不尽に耐えたり、心根と違うことを言ったり行ったりする必要があり、まるで自分の身体が少しずつ砕かれるようだと考えている若者です。

星の名前も知らず 灯りともすこともなく

白い音にうずもれ カビ臭い毛布を抱き

思いをはせる

夜空に

部屋に戻り窓の外を見ると多くの星が輝いているが、それぞれの名前はわからない。

自らも光を放つことはなく暗い部屋の内にいる。

季節は冬であり、外は寒く、さらに雪が降っているので静謐としている。

この風景描写は、冬であることから「恋人がいないこと」、寒いことから「寂しい」という心情も表しているように思います。

カビ臭い、通常なら不快と感じそうな毛布を抱くことに安心感を覚えている。

もしかしたら、ブランケット症候群のように日々のストレスへの反応として毛布に戻っているのかもしれません(ブランケット症候群は洗濯されることを嫌います)。

そして、夜空に無数に輝く星に思いを巡らせています。

君だけを必ず 君だけを 描いてる ずっと

遠い夜空に多くの星が輝くように、広い地球にもたくさんの人間がいて、そのどこかに「君」がいる。

今は名前も、いる場所もわからないし、僕も自分から光を放つことはないけれども、同じように砕かれている「君」が必ずどこかにいるのだ。

最初に「僕ら」と歌っていたのは、「僕とまだ見ぬ君」でした。

一人いつもの道を 歩く目を閉じて一人

不器用な手で組み立てる 汚れたままのかけらで

いつか出会える時まで

そして、僕は一人、日々繰り返される営みを淡々と続けます。

「目を閉じて」から自分を砕くものから影響を受けないようにしていることがうかがえます。

しかし、どんなに影響を受けないようにしても実際は砕かれていきます。

そんな社会に砕かれて汚れたかけらになってしまった自分の一部をそのまま自分に戻しなんとか自分を組み立て直して人魂にはならないように保っています。

この「一人」で使用される漢字が、ただ単に数字を表すもので、「孤独」を表すものでないことが大切で、それは「君」がいるからです。

今は、人数として一人、しかし、自分は孤独ではない、いつか君と必ず出会えると信じているのです。

信じることが支えとなっています。

君だけを必ず 君だけを 描いてる ずっと

君だけを必ず 君だけを 描いてる ずっと

人間は一人では不完全で、自分と合わさるパーツであるもう一人を探しているという考え方があります。

その二人が合わさった時、やっと完全になれる。

そう信じることで、自分を見失わずに日々を生き抜くことが出来る。

 

「君だけを」は、守られていた純粋な子供時代を経て大人の社会に入った若者の、不安定ながらも、これからは自分で自己を守り保持していくのだというひたむきな感情が歌われた切なくも美しい曲でした。

きっといつか「君」と出会え、助けとなり、強さと安定が得られることを願わずにはいられません。

君だけを

君だけを

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