スパイダー

「スパイダー」は、1994年9月発売の5thアルバム「空の飛び方」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:笹路正徳スピッツ

可愛い君が好きなもの ちょっと老いぼれてるピアノ

さびしい僕は地下室の すみっこでうずくまるスパイダー

洗い立てのブラウスが今 筋書き通りに汚されていく

「可愛い君は、老いぼれているピアノが好き」

この部分を読むときにポイントになるのは、僕が「スパイダー」なことです。

つまり、君を捕獲することを狙っている、そのために好きなものを探っているんです。

そしてたどり着いた答えは、「ちょっと老いぼれてるピアノ」

ピアノはご存じの通り、調律をしないと音が狂ってきます。

それで、定期的に調律をするのですが、あまりにも古くなると調律をしてもどうしても完璧には直せない状態になってしまいます。

それが「ちょっと老いぼれてる」ということ。

あるいは、単に長く調律をされていないという意味かもしれませんね。

そんなピアノで旋律を奏でれば、調子外れの音色を奏でます。

要するに、彼女は、「正統的なものからちょっと外れたもの、ちょっと変わったもの、ちょっとおかしいものが好き」というような意味になるかと思います。

そして、僕は「さびしい」ので、孤独で、一緒にいられる恋人を求めています。

暗い地下室の隅っこで目立たないようにうずくまって、つまり、虎視眈々と可愛い君を狙っています。

「筋書き通り」からわかるように、どうやったら君をモノにできるか計画を練っていたんですね、そして、それを実行して、「洗い立てのブラウス」のように真っ白だった「君」は、僕の計画通りにだんだんと僕の色に「汚されて」染まっていきます。

僕の存在がしみ込んでいきます。

※自分によって「汚される」というのは、ちょっと卑下した表現のようにも思えますが、それはこれからの段に詳しく書かれるのでここでは省略します。

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

「君を奪う」というのは「君の心を奪う」ということです。

物理的に遠くへ行くわけではなくて、君の心を奪って、もう簡単には戻れないくらいに遠いところまで「逃げる」ということです。

※この「逃げる」についても後程書きます。

「千の夜」は「千夜一夜物語」から採っていると思われます。

シェヘラザードは、愛に絶望して次々と一夜で妻を殺害する王の愚かな行いを辞めさせるために、殺される危険を冒して、妻として迎えられてから毎夜楽しい話を聞かせ、「続きは明日。明日の話は今日よりももっと面白いのですよ」と自分をずっと手元に置くよう計略します。そのうちに王の子供を身ごもり、王は彼女を妻として正式に認め、めでたく殺害を辞めるのです。

奪って逃げた後は、その「千」よりももっと多くの夜、ずっと長い間君を楽しませ続ける、ということをここでは表しているのでしょう。

可愛い君をつかまえた とっておきの嘘ふりまいて

さびしい僕に火をつけて しらんぷり ハート型のライター

こがね色の坂道で加速したら 二度と戻れないから

「とっておきの嘘」はこれまでの歌詞から、君が好きなものを探り当てて、君の気を惹くためにそれに沿って「筋書き」を立てて行ったことです。

言わば「謀」なのでそれを「嘘」と呼んでいます。

先ほど「汚されていく」と歌っていたのはこれが理由でしょう、僕のそのままの魅力に彼女が惹かれたわけではなくて、「嘘」によるのでちょっと後ろめたい感じなんです、堂々としていないんですね。

このあたりにスピッツ独特のほの暗さが感じられて良いですよね。

二人は深い仲になったのでしょう、その「嘘」によってようやく手に入れたと思ったのに、君はライターのように僕の心に火をつけておきながら、そのあとは気まぐれにそっけなかったりするわけです。

ハート型というところから君をどれだけ可愛いと思っているのかがわかりますね。

でも、もう僕は元には戻れません。

火をつけられて上昇した心はどこまでも昇って行きます。

そして、その道が「こがね色」なのは、実った稲穂が黄金色に輝くように、僕の恋心は豊かに育ちすでに収穫するほどの時期なのだということでしょうか。

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

力尽きたときはそのときで 笑いとばしてよ

だから もっと遠くまで君を奪って逃げる

ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける

そんな風に僕の中に育った君への恋心はもう元には戻せないので、どこまでも遠くに逃げます。

どうして「逃げる」のかというと、もともと「嘘」でやっと奪った君の心なのでその場にいてはちょっと不安で、特に「君」は気まぐれな態度を取ったりするので余計にするりとすり抜けられてしまいそうに思うからでしょう。

「力尽きたときはそのときで 笑いとばしてよ」

ずっと君のことを楽しませるけれど、もしそれが続かなくなっても、千夜一夜物語の王のようには見限らないでね、そのときは仕方ないなって笑い飛ばしてね、でも僕は精一杯頑張るからと、どんなにこの恋に全力を傾けているのかが語られ、とても可愛らしいです。

恋の駆け引きと、そのために揺れる不安な気持ち、君の心をいつまでも留めておくぞという覚悟のような思い、そんな恋する僕の心理状態が楽しく表現され、とても可愛らしく思えます。

そして、君の少し個性的で気まぐれに思える様子にどんなに惹かれているのか、だからこそ必死になってしまうその心の様が伺えるところもとても興味深く感じられる「スパイダー」でした。

スパイダー
スパイダー
  • provided courtesy of iTunes
スパイダー
スパイダー
  • provided courtesy of iTunes