恋は夕暮れ

「恋は夕暮れ」は1994年9月発売の5thアルバム「空の飛び方」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:笹路正徳スピッツ

恋は昨日よりも 美しい夕暮れ

恋は届かない 悲しきテレパシー

「恋」についてさまざまに語られます。

まず、恋はそれ以前よりも美しい夕暮れです。

ここではとりあえず定義して、詳しくは後程出てきます

それから、恋は心で想っているだけでは悲しいことに相手には伝わりません。

恋は待ちきれず 咲き急ぐ桜

恋は焼きついて 離れない瞳

そして、恋は急いで心の蕾を膨らませ、桜の花を咲かせます。

なぜ桜なのかと言えば、桜は「春」の象徴であり、春は「恋」の象徴であるからです。

早く咲くことで早く散ってしまうとしても、恋をするとその気持ちを冷静に抑えてはいられません。

また、恋をすると、相手の美しい瞳の残像が常に脳裏に映し出されてしまい、いつも相手を想っている状態となります。

恋をした時、みなさんにも経験のあることではないでしょうか。

蝶々になる 君のいたずらで

ただ朱く かたちなき夢を

染めていくような夕暮れ

蝶々は、童謡で「菜の花に飽いたら桜にとまれ」と歌われますよね。

君は、その蝶々になってひらひらと飛び回り、桜の僕にもとまってくれました。

僕のところにも来てくれたのですね。

いたずらなので、まだちょっと止まってくれたというイメージでしょうか。

そのことで、空が朱く染まる夕暮れの感じを覚え、それは、「夢か現か」などと表現される、事実ではない、実体を持たないものの象徴である「夢」が色づいていくことのように感じられました。

君によって自分の中のぼんやりとしたものが染められていくのを感じ、それに染まっていく夕暮れを思いました。

それは初めに出てきた「昨日よりも美しい夕暮れ」であり、ポジティブな感覚です。

恋は迷わずに 飲む不幸の薬

恋はささやかな 悪魔への祈り

続いて、恋は不幸の薬だとしています。

これは、おそらくシェイクスピアの「不幸を治す薬は、ただもう希望より他にない」を引用しているのでしょう。

「不幸の薬」はすなわち「希望」です。

それを迷わずに飲むのですから、理性など働いていない状態で、とにかく必死に求めています。

次に、恋はささやかな悪魔への祈り。

悪魔信仰は、自己中心的・利己的なものとされていて、神を信仰する際に使われる博愛・友愛などとは真逆の精神です。

悪魔というと物騒に思えますが、ささやかなとしていますので、ここではただ自分の都合でのみ祈るということでしょう。

どちらも、とにかく自分本位に想いを叶えたいという切羽詰まったものだと言えます。

このように感じる時、非常に苦しい思いをしている。

それも、多くの方が経験される感情ではないかと思います。

こだまする 君の囁きが

ただ朱く かたちなき夢を

染めていくような夕暮れ

今度は、君に耳元で囁かれた声が頭の中で何度も思い返され、恋する相手をいつも感じています。

憧れのように想っていた時の恋の状態が「離れない瞳」まで、君が蝶々となりいたずらに僕のところに来てくれて、そしてさらに僕は君を想うようになった。

先ほどの自己中心的な思いが出てくるのは、恋のその段階のように思えましたがいかがでしょうか。

そして、続いて「囁き」という言葉を用いることで、二人が耳元で囁きあうような非常に親密な関係になったことがわかります。

祈りが叶い、良い関係になれたのでしょうか。

そしてまた染まっていく夕暮れの感覚を覚えます。

武器を捨てて僕はここにいる

まぶたの内側で生きている

くすぐる風に運ばれるまま

ながめた夕暮れ

先ほどから出てきた「夕暮れ」について、ここで詳しく語られます。

僕は自分の外側から身を守るために携えていた武器を捨てます。

恋をするとは、他者が自分の心の中に入ってくることだからです。

そうすることで夢のように形なくぼんやりとしていた自分というものが、はっきりと「存在」するようになりました。

そして、外側ではなく、まぶたの内側すなわち自己の内面を見つめ、自分自身を生きることに意識を向けるようになりました。

それは、何か一大決心をしてというわけではなく、恋によって心が刺激され、その心を刺激したくすぐる風のようなものに乗ってただ運ばれ、夕暮れの空が眺めるうちに朱く染まっていくように、自然と自分の中に起こった出来事でした。

恋によってもたらされるとても大きな変化ですが、しかし、それはとても自然な変化だとしています。

「夕暮れ」とは、このような変化のこと。

タイトルの「恋は夕暮れ」とは、恋によってもたらされる自己の内面の変化を意味していました。

恋は昨日よりも 美しい夕暮れ

恋は届かない 悲しきテレパシー

蝶々になる 君のいたずらで

ただ朱く かたちなき夢を

染めていくような夕暮れ

恋をするとなぜ内面が変化するのでしょう。

他者が心に入ってくることによって、嫌でも自分の気持ちを見つめざるを得ないからでしょうか。

そして、そのことで例えば今まで知らなかった自分の一面を知るなど、自己をはっきりと意識させられるからでしょうか。

そうすることによって、自分自身とつながることができ、自分を受容し、それが自己を確立させていく力となるのかもしれません。

恋は夕暮れ

恋は夕暮れ

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