不死身のビーナス

「不死身のビーナス」は1994年9月発売の5thアルバム「空の飛び方」に収録されました。

作詞・作曲:草野正宗、編曲:笹路正徳スピッツ

雨降り朝まで もう絶対泣かないで

知らないどこかへ 行っちゃうその前に

二人で取り出そう 恥ずかしい物語を

ひたすら 背中たたかれて バカな幸せ

雨は涙の比喩表現です。この日、朝まで二人はずっと泣いていました。

それは、一人が「知らないどこか」へ行ってしまうから。

もうそろそろ行くことを決めないといけないのでしょうか。

それならば、もう泣くのはやめて、二人の恥ずかしくておかしな思い出を語ろうよと提案し、それで背中をたたきあって大笑いして、バカバカしいけれど、とても幸せな時間を過ごしました。

最後の記憶を二人の思い出と共に楽しいものにしたい、という思いが伝わってきます。

二人の関係は、別れの前なのに、泣きあったり、楽しく笑い合ったりと、決して険悪なものではない様子です。

最低の君を忘れない おもちゃの指輪もはずさない

不死身のビーナス いつでも傷だらけ

それなのに、「最低」と言っているのはなぜでしょうか。

「最低」なのに忘れない、そして、「おもちゃの指輪」つまり本格的なものではなかったけれど二人で約束した将来も手放さない、と言っているのは、お互いにまだ深く想い合っているからでしょう。

つまり、君自身が最低なわけではなく、行ってしまう君のその行ってしまう行為について「最低」と評しているのです。

そして、本当に最低だと思ってるのではなく、これは悲しみが転じたものと考えられます。

指輪は、交際の固い約束や、結婚の象徴ですから、それをはずさないというのは、ただ忘れないだけでなく、そのように固く約束した将来をそのままにしておく、ということです。

そして、相手を「不死身」なのに「いつでも傷だらけ」だとしています。

「ビーナス」と呼んでいるので、君を女神のように特別な人だとしていますね。

疲れた目と目で いっぱい混ぜあって

矢印通りに 本気で抱き合って

さよなら

飲みほそう 生ぬるい缶ビールを

あくびが終わる勢いでドアを蹴飛ばす

お互いに朝まで泣き通して、それによって疲れきった目と目で見つめ合います。

それは、お互いの存在をお互いの中に取り込んで精神が一つになるような感覚です。

そして、肉体も、向かい合った矢印がずっとその方向へ止まらずに進み続けるように、強く強く抱きしめ合います。

そして、「さよなら」。

とても離れがたく辛い別れであることが伝わってきますね。

長い時間一緒にいたのですっかりぬるくなってしまった缶ビールを飲みほして、飲み干すことをきっかけにして、そして一晩中寝ないでいたので出たあくびをきっかけにして、本当は出たくないのに、絶対に出たくないのに、ドアを無理矢理にそれらの勢いで蹴飛ばして、外に出ます。

ドアというのは、心のドアを意味していると思います。

行かなくてはならないから、二人で一緒にいるという心の部屋からなんとか外に出るのです。

(追記)この缶ビールは二人が出会った時に乾杯したもので、つまり交際の象徴で、最後まで飲み干すことで全てを終わりまでやり尽くそう、という意味を含んでいるとも考えます。生ぬるくなっているととこら、二人の交際期間は長くということも示唆されているように思います。

最低の君を忘れない 悲しい噂は信じない

不死身のビーナス 明日も風まかせ

ここまで、二人は強く想い合い、離れがたく想っていることがわかりました。

信じたくない「悲しい噂」とはいったい何でしょうか。

加えて、「明日も風まかせ」と、明日のことはわからないから案じずに成り行きに任せようとしているのはどういうことでしょう。

二人で取り出そう 恥ずかしい物語を

ひたすら 背中たたかれて バカな幸せ

最低の君を忘れない おもちゃの指輪もはずさない

不死身のビーナス いつでも傷だらけ

最低の君を忘れない 悲しい噂は信じない

不死身のビーナス ネズミの街

さびしい目で 遠くを見てた

不死身のビーナス 明日も風まかせ

君は、全てが灰色に見える「ネズミの街」で、「さびしい目で遠くを見てた」と、何かを思い悩んでいました。

歌詞を丁寧に読んで、私は、これは君が亡くなることを示唆しているのだと思いました。

君が行ってしまうのは「知らないどこか」でしたね、死後に人はどこへ行くのか、生きている人間にはわかりません。

「さびしい目で遠くを見てた」のは、君は既に自分が長くないことを知っていたからで、そんな状況ではきっと周りが全て灰色に見えていたことでしょう。

それで、君は「いつでも傷だらけ」の状態だったんですね。

自分と一緒にいる時にも実は傷だらけだったことを知ったのは相当のショックだと思います。

僕はそれを打ち明けられて、「心も身体も傷だらけだけれど、僕が女神のように想う君は不死身なんだ」「明日のことはわからないのだから案じても仕方ない」、だから「君と約束した将来も自分はそのままにしておくからね」と呼び掛けている。

「君は絶対に死なない」というメッセージを君にも必死に伝えているし、自分にもそう言い聞かせている。

実際には君がすでに元には戻れない状況であることがわかっていますが、「悲しい噂」と、そんなことは「噂」であり「信じない」と懸命に打ち消して「君は不死身なのだから」と。

(追記)それから、例え亡くなったとしても、自分の記憶の中で君の魂は永遠に生きているし、そういう意味で君は不死身であるという意味も込めているのかもしれません。

「不死身のビーナス」は、大切な君を失うという強い悲しみ描いたものでしたが、「悲しい」という言葉を一切使わずにここまで描き切られており、とても素晴らしい作品でした。

二人が想い合う気持ち、君の絶望的な気持ち、僕の強い悲しみがとても強く伝わってきて、読んでいて本当に胸がいっぱいになりました。

不死身のビーナス

不死身のビーナス

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